「カナダの高校留学、手続きは自分でもできるんじゃないですか?」
正直な質問だと思います。そして、正直にお答えする価値のある質問だと思います。
私はカナダ留学のエージェントを20年やってきました。現在はカナダに住み、3人の子どもをカナダの学校に通わせています。エージェントである私が「エージェントは必要です」と言っても、それはポジショントークです。ですから、この記事ではまず「できます」と認めるところから始めます。
そのうえで、実際に個人手配を進めたご家庭が、どこで、なぜ詰まったのか。今までに見てきたことを、そのまま書きます。判断はご家庭でして頂ければと思います。
この記事は「自分でやるべきか、任せるべきか」を判断するための材料です。手続きの具体的な手順そのものは、入学手続きの流れ にまとめてあります。
結論:できます。ただし条件が3つあり、1つは家庭の努力では埋まりません
先に結論を書きます。
カナダ高校留学の手続きは、エージェントなしでも可能です。 制度として「エージェントを通さなければならない」と決まっているわけではありません。
ただし、実際にやり切るには、次の3つの条件が要ります。
- 親子ともに高い英語力があること
- 英語の文書を「英語の文化のもとで」読めること(英語力とは別物です。後で詳しく書きます)
- 教育委員会の側が、個人からの申し込みを受け入れてくれること
①と②はご家庭の努力で近づけます。しかし、③はご家庭の努力ではどうにもなりません。
カナダの教育委員会の多くは、実務上、エージェントを介することを前提に留学生の受け入れを運用しています。 個人で直接申し込んだご家庭が、教育委員会からエージェントを紹介される、ということは実際に起こります。弊社にも来ます。
これは「個人では出願できない」という意味ではありません。ただ、受け入れる側にも、彼らなりの理由があるということです。未成年の生徒を10ヶ月間預かるうえで、書類の不備や連絡の行き違いを一つひとつ家庭と直接やり取りする負荷を、彼らは避けたい。だから間に立つ存在を求めます。
ここを知らずに進めると、せっかくご自分でやろうとされたリサーチなどが無駄になってしまいます。
出願そのものは、実はいちばん簡単な部分です
個人手配を検討される方の多くが、こう考えます。
「願書を出して、受け入れ通知をもらう。書類を揃えてビザを申請する。難しくはなさそうだ」
その通りです。平常運転なら、出願は難しくありません。
問題は、出願が留学手続きの「入口」でしかないことです。全体の中で言えば、ほんの最初の数歩にすぎません。
そして、詰まるのは平常運転のときではありません。例外が起きたときです。
個人手配が詰まるのは、必ず「例外」が起きたとき
これまで私が繰り返し見てきた「詰まりどころ」を挙げます。
予防接種が足りていない
カナダの州によっては、入学前に一定の予防接種の記録提出が求められます。日本で受けている接種が、カナダの基準を満たしていないことは珍しくありません。
ここで、「何が足りないのか」「日本のどこで追加接種できるのか」「母子手帳のどの部分をどう英訳するのか」を、渡航前の限られた時間の中で解決する必要が出てきます。→ 追記: オンタリオ州の場合、日本人に共通して不足しがちな項目があります。 詳しくは オンタリオ州留学の予防接種|3つの穴 をご覧ください。
持病やアレルギーについて、英文の診断書を求められる
食物アレルギー、喘息、常用薬。これらがあると、英文の医師診断書を求められることがあります。
日本の医師に英文診断書を依頼する。書式は指定される場合もある。内容が不十分なら書き直してもらう。その間も、出願の締切は動きません。
成績表が「カナダで受理される形」で作られていない
これがいちばん多いかもしれません。
日本の学校が発行した英文成績表が、教育委員会の求める形式・記載内容を満たしておらず、差し戻される。学校に頼み直す。しかし日本の学校は年度末や長期休みで動けない時期がある。
大きな声では言えませんが、学校側も間違えます。
丁寧に準備をして進めて来たとしても、教育委員会、学校側から間違った書類が届いたり、勘違いが訂正されず手続きが進んでしまうことがあります。
書類の不備が起きたとき、その修正を誰がやるのか。 これが個人手配の最大の負荷です。
そして、出願の「先」に続く工程があります
ここが、いちばん見落とされる部分です。
入学許可が出たら終わりではありません。むしろ、そこから本番です。 実際に発生する工程をご紹介しますね。
- 教育委員会の専用ポータルでの書類提出・管理
- 入学許可書の受け取りと内容確認
- 後見人(カストディアン)書類の取得と確認
- 請求明細書の受け取りと内容確認
- 科目選択(カナダの科目コードを理解して選ぶ必要があります)
- 渡航日の調整と確定
- ホームステイ先の情報受け取りと、ご家庭への引き渡し
- 医療保険関連書類のチェック
- 空港送迎の手配
- 渡航時に携行すべき書類の準備
- 渡航後のイベント参加の確認、各種同意書の提出
- 一時帰国が発生した場合の対応
- 成績表の受け取り、内容確認、必要に応じた修正依頼
- ホームステイ先の変更が必要になった場合の交渉
- 学校から生活態度、成績に関する指導が入った場合の対応
教育委員会とのやり取りの回数は、数えきれません。 1家庭あたり、渡航前から渡航後、そして帰国まで、断続的に続きます。
これを全部、日本のご家庭が、日本時間で、日本語ではないやり方で、こなしていくことになります。
「知っている人には常識、知らない人には見えない」もの
もう一つ、厄介なものがあります。
誰も教えてくれないのに、間違えると二度手間で、余計な費用が掛かることです。たとえば——
後見人の許可なく、予定より早くカナダに入国してはいけません。
「せっかくだから、少し早めに現地に着いて慣れておこう」——気持ちはわかります。しかし、後見人の責任が始まる日と、医療保険が有効になる日は、届け出た到着日に紐づいています。それより早く入国すれば、誰の保護下にもなく、保険も効かない状態で、未成年が異国にいることになります。
これは、知っている人にとっては当たり前のことです。だからこそ、誰も注意してくれません。 個人手配で抜け落ちるのは、こういう類の項目です。
科目選択もそうです。到着日の確定もそうです。「常識」として扱われるがゆえに、説明されないまま進んでいきます。
英語力があっても足りない。「英語の文化で読む」という話
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
条件②に挙げた「英語の文書を、英語の文化のもとで読む力」。これは、TOEICのスコアでも、英会話の流暢さでもありません。
実例を挙げます。
留学中に、ある留学生の生活態度が乱れ、成績が落ちた時期がありました。教育委員会の責任者(その子の後見人でもある方)から、保護者へ注意を促すメールが届きました。その中に、こういう一文がありました。
I strongly recommend that the student take a tutoring session after school once or twice a week.
日本の保護者は、こう返しました。
「recommend、つまり”おすすめ”ですよね。うちは必要ないと思います。」
訳としては、間違っていません。 recommend は「推奨する」です。この保護者の方は、日常的に英語を使って仕事をされている方でした。英語力は、十分にあったのです。
しかし、読めていませんでした。
考えてみてください。この文章を書いたのは誰か。教育委員会の責任者であり、その子の後見人——つまり、カナダにおけるその子の保護責任を負っている人です。その立場の人が、日本の保護者に対して、カナダでの生活態度、成績をみた上で書いている I strongly recommend は、日本語の「おすすめ」ではありません。
これを断るということは、「あなたの言うことは聞きません」と表明したのとほぼ同じです。
英文和訳としては正しかった。訳せていたのに、読めていなかった。 そして、失われたのは時間ではありません。学校、そして後見人との信頼関係です。それは、あとから取り戻すのが非常に難しい。
私が「カナダでのビジネスのやり取りの経験」と言うのは、こういうことです。英語の表面を日本語に置き換えて、日本人の受け取り方で解釈する。 カナダの学校や教育委員会を相手にする場面で、これがいちばん大きなズレを生みます。
「エージェント、いらなかったかも」と思う理由
インターネットなどを見ていると、エージェントを使って留学された方が、終わってからこう思うことがあります。
「特にトラブルもなかったし、結局、自分たちでもできたんじゃないか」
その感想は、ある意味で正しいのです。 何も起きなかったのですから。
ただ、一つだけ申し上げたいことがあります。
何も起きなかったのは、何も起きないようにしていたからです。
書類は、提出前に形式を確認しています。予防接種の不足は、早い段階で洗い出しています。教育委員会からの連絡には、その意図まで含めてご家庭に伝えています。「これは絶対にやってはいけません」という注意は、事故が起きる前に出しています。
予防された事故は、記憶に残りません。 起きなかったことは、思い出せない。だから「必要なかった」と感じる。それは、私たちの仕事がうまくいった証拠でもあります。
私たちがやっているのは、書類の代行ではありません。読み違いを起こさせないことです。
自分でやるべき家庭/任せるべき家庭
ここまで経験から説明をさせて頂きましたが冒頭にも書いたようにエージェントの利用は必須ではありません。正直に参考になる線を引きたいと思います。
個人手配が現実的なご家庭
- 保護者・お子さんともに、英語で込み入った交渉ができる
- 英語圏の組織と、実務レベルでやり取りした経験がある
- 「文面の裏にある意図」を読む習慣がある
- 書類の不備が起きたとき、日本の学校や医療機関と英語で調整し直す時間と体力がある
- 個人からの申し込みを受け入れる留学先を、自力で見つけられる
これらが揃っているなら、やってみる価値はあります。
エージェントを使ったほうがよいご家庭
- 上記のいずれかに不安がある
- 保護者が仕事を持っていて、平日日中の英語対応に時間を割けない
- 「知らないことを知らない」状態が怖い
- お子さんが未成年で、渡航後に何かあったとき、現地で動ける人がいてほしい
私たちが引き受けている範囲と、その費用
キャタリストカナダの費用は、手続き代行+渡航後10ヶ月の年間サポートを含めて 99,000円(税込) です。これは、大手エージェントのおよそ6分の1にあたります。
この金額で引き受けているのが、この記事に書いた工程のすべてです。出願だけではありません。書類の形式確認、予防接種の洗い出し、後見人書類、科目選択、渡航日の調整、空港送迎、ホームステイ情報の受け渡し、成績表の確認、渡航後のトラブル対応、そして——教育委員会からの一文が何を意味しているかを、日本語で説明することまで。
そして、私たちは特定の学校を売り込みません。そのお子さんに合う場所を、一緒に探すのが仕事だと思っています。
よくあるご質問
Q. カナダの教育委員会に、個人で直接申し込むことはできますか? A. 制度として禁止されているわけではありません。ただし実務上、多くの教育委員会はエージェントを介した申し込みを前提に運用しています。直接申し込んだご家庭が、教育委員会からエージェントを紹介されるケースも実際にあります。
Q. 英語が得意なら、エージェントは不要ですか? A. 英語力は必要条件ですが、十分条件ではありません。英語を日常的に使う仕事をされている保護者でも、教育委員会からの文書の意図を読み違えた例があります。訳せることと、読めることは違います。
Q. 個人手配で、いちばん多い失敗は何ですか? A. 書類の不備です。特に、英文成績表がカナダで受理される形式で作られておらず差し戻される、予防接種の記録が不足している、持病やアレルギーの英文診断書が求められる——この3つが典型です。いずれも「例外が起きたとき」に発覚し、締切までの時間を削ります。
Q. エージェントは、出願が終わったら仕事は終わりですか? A. いいえ。出願は入口にすぎません。後見人書類、科目選択、渡航日の調整、ホームステイ情報の引き渡し、空港送迎、渡航後の同意書提出、成績表の確認、一時帰国対応、ホームステイ変更の交渉など、渡航後10ヶ月にわたって工程が続きます。
Q. 予定より早くカナダに入国してはいけないのはなぜですか? A. 後見人の責任が始まる日と、医療保険が有効になる日が、届け出た到着日に紐づいているためです。それより早く入国すると、保護者不在・保険未発効の状態で未成年が滞在することになります。
最後に
この記事を読んで、「自分でやってみます」と決められたなら、それは正しい判断だと思います。うまくいくことを願っています。そして、もし途中で詰まったら、そのときにご連絡ください。実際、そういうご家庭を何度もお引き受けしてきました。
留学において、自分でまずはなんでもやってみることが大切。私が留学生にいつもカウンセリングや電話サポート、ブログなどで伝えていることです。それをまさに保護者のかたが見せようとしている場面と言えます。
もし判断に迷ったら、一度お話ししましょう。売り込みはしません。お子さんの状況を伺って、「自分でやれそうか」まで含めて、正直にお答えします。
