ホストファミリーが「結婚していないカップル」だったら?──カナダのコモンローを、カナダ現地から正直に

ホームステイ先が決まり、ホストファミリーの情報を保護者の方にお渡しします。写真があり、家族構成があり、職業があり、趣味があります。

その中で、こんなご連絡をいただくことがあります。

「このお二人、結婚していないんですね。……大丈夫でしょうか」

ときには、もっとはっきりしたご要望も届きます。

「渡航前に、別の家庭に変えていただけませんか」

お気持ちは、わかります。まだ現地の生活も始まっていない段階で、手元にあるのは一枚の家族紹介の紙だけ。そこに「結婚していない」という一行がある。不安になるのは、当然です。大切なお子さんを預ける相手を、真剣に見ようとしているからこその反応だと、私は思っています。

だからこそ、この記事を書きます。

結論から申し上げます。カナダで「結婚していないパートナー同士のカップル」は、まったく珍しくありません。カナダのカップルの、およそ4組に1組がそうです。 そして、それは「いい加減な家庭」を意味しません。むしろ、その事実を知らないまま判断してしまうことのほうが、お子さんの留学にとって、静かなリスクになります。

データと、カナダで暮らしている現場の感覚の両方から、順を追ってお話しします。


目次

まず数字から:カナダのカップルの約23%が「コモンロー」

カナダにはコモンロー・パートナーシップ(common-law partnership/事実婚)という関係のかたちがあります。法律婚(結婚)ではないけれど、パートナーとして一緒に暮らし、家庭を営んでいるカップルのことです。

カナダ統計局(Statistics Canada)の2021年国勢調査によると──

  • カナダには約860万組のカップルがいる
  • そのうち約23%が、結婚していないコモンローのカップル
  • この割合は、G7の中でカナダが最も高い
  • 全世帯(センサス・ファミリー)に占めるコモンロー世帯は約19%

つまり、カナダのカップルの、およそ4組に1組。町を歩けば、当たり前にいます。

さらに、時間の流れで見ると、この変化の大きさがわかります。

全世帯に占めるコモンロー世帯の割合
1981年5.6%
2001年約14%
2021年約19%

※出典:カナダ統計局 国勢調査(2021年)

40年で、3倍以上に増えました。これは一時的な流行ではなく、カナダ社会に定着した、標準的な家族のかたちのひとつです。

ちなみに、ケベック州はさらに突出しています(カナダ全体のコモンロー世帯の約4割がケベック州に集中しています)。ケベック州を除いて計算しても、カップルの17%前後がコモンローです。どの州でも、決して例外的な存在ではありません。


「結婚していない=いい加減」ではありません。カナダの法律がそう扱っていません

ここが、日本の感覚といちばん大きくズレるところです。

日本では「事実婚」と聞くと、どこか手続きを済ませていない、あいまいな関係という印象を持たれることがあります。「そのうち別れるかもしれない」「責任を負っていない」というニュアンスです。

カナダは違います。コモンローは、法律が正面から認めている、責任を伴う関係です。

たとえば、連邦法(税・年金・雇用保険・移民)では、12ヶ月継続して一緒に暮らしていれば、その時点で「コモンロー・パートナー」として扱われます。 本人が望むかどうかに関係なく、自動的にそうなります。

そして、そうなると──

  • 税金の申告は、世帯として行う
  • 年金(CPP)や政府給付の計算も、世帯として扱われる
  • 移民手続きでは、配偶者と同じ枠組みでパートナーを呼び寄せられる

州法のレベルでは、さらに踏み込んでいます。ブリティッシュコロンビア州では、2年一緒に暮らせば、財産分与や扶養の権利がほぼ結婚と同じになります。オンタリオ州では3年(子どもがいれば1年)で扶養の義務が生じます。アルバータ州には「アダルト・インターディペンデント・パートナー(相互依存関係にある成人)」という法的地位があります。

つまり、カナダのコモンローとは──

「紙を出していないだけで、法的な責任も、社会的な扱いも、家庭としての実態も、結婚とほぼ同じ」

という関係です。

「結婚していないから、いつでも簡単に別れられる、無責任な関係」──これは、カナダの現実を正しく表していません。

そして、もうひとつ大事なこと。カナダでは、誰も気にしません。 学校でも、職場でも、近所でも、「あの人たち、結婚してないらしいよ」という話題になること自体が、ほとんどありません。子どもたちにとっても、友達の家がコモンローであることは、ごく普通のことです。


では、ホストファミリーの「質」は何で決まるのか

ここが本題です。

留学生の保護者の方が本当に知りたいのは、法律の話ではありません。「うちの子を、大切に預かってくれる家庭かどうか」です。それは、まったく正当な問いです。

では、その問いへの答えとして、「結婚しているかどうか」は使えるでしょうか。

使えません。 20年間、何百件ものホームステイを見てきた立場から、はっきり申し上げます。結婚しているかどうかと、良いホストファミリーかどうかの間には、何の関係もありません。

実際に、私たちが見てきた「うまくいかなかった家庭」も、「素晴らしかった家庭」も、婚姻の有無とはまったく無関係に散らばっています。法律婚の家庭で問題が起きたこともあれば、コモンローの家庭で、留学生が「もう一年ここにいたい」と泣いて帰国を惜しんだこともあります。

ホストファミリーは「結婚しているか」で選ばれていません

そもそも、ホストファミリーの審査基準に「婚姻の有無」は入っていません。教育委員会やホームステイ運営団体が見ているのは、こういうことです。

  • 警察の犯罪経歴証明(Criminal Record Check/Vulnerable Sector Check) ── 家庭内の成人全員が対象。未成年者と接する立場のため、通常より厳しい審査が入ります
  • 家庭訪問による住環境チェック ── 生徒に個室があるか、安全か、清潔か
  • 面接 ── なぜ受け入れたいのか、留学生とどう関わるつもりか
  • コーディネーターによる継続的なモニタリング ── 配属後も定期的に確認が入ります

婚姻届の有無は、この審査のどこにも登場しません。 一方で、犯罪経歴のチェックは、家庭内の成人全員に対して行われます。カナダ社会が「子どもを守るために本当に必要だ」と考えている基準は、そちらだからです。

本当に見るべきポイントは、別のところにあります

では、何を見れば良いのか。私が実際に「良い家庭のサイン」として重視しているのは、こういうことです。

  • 食事の質 ── もてなす気持ちは、どの文化でも食卓に表れます。これは目に見えて、写真にも残せる指標です
  • 生徒への関心 ── 学校のことを聞いてくれるか。週末に一緒に出かけようとしてくれるか
  • コミュニケーションが取れるか ── 困ったときに、話を聞いてくれる空気があるか
  • 家庭のリズムに、留学生の居場所があるか

これらは、渡航前の紙の情報では、どうやってもわかりません。 だからこそ、紙の上の「結婚しているか」という一行に、判断のすべてを預けてしまうのは危険なのです。

ホームステイ先が決まったあと、実際に何を確認し、どう最初の連絡を取ればいいのかは、こちらにまとめています。 → ホームステイ先が決まったら?最初に確認すること・最初のメッセージの書き方


渡航前の「家庭変更リクエスト」を、私たちがおすすめしない理由

保護者の皆さんのご心配は重々承知で、正直にお話しします。渡航前に「この家庭を変えてほしい」というご要望をいただいたとき、私たちは、まずこの記事でお伝えしているような説明をします。それでもご希望が強ければ、お伝えすること自体はできます。

ただ、カナダ留学の全体を把握しているエージェントとして、これはおすすめできません。理由は3つあります。

① 変更の「回数の限界」を、いちばんもったいない使い方で消費してしまう

ホームステイの変更は、無制限にできるものではありません。同じような理由で変更が続くと、学校やホームステイ運営団体から「この生徒は、ホームステイで暮らすのが難しいのかもしれない」「この保護者のニーズを満たすのは無理」と見られてしまいます。そうなると、本当に必要になったときに、次の家庭が見つかりにくくなります。

渡航前、まだ誰にも会っていない段階で、この貴重な「変更の枠」を使い切ってしまう。これは、本当にもったいない。

変更という選択肢そのものについては、こちらで詳しくお話ししています。 → ホームステイは変更できる?「合わなかったら」の本当の答え

② コーディネーターとの信頼関係に、最初の傷がつく

ホームステイコーディネーターは、お子さんのプロフィールと自分がよく知る地元のホストファミリー達を照らし合わせ、出来る限りベストのマッチングします。そして、お子さんにとって、現地でいちばん身近な味方です。その味方に対して、まだ会ってもいない家庭を、書類だけを見て「この人たちは不適切です」と伝える。 これは、伝わり方によっては、こう受け取られます。

「このホストファミリーは、カナダでは何ら問題のない、ごく普通の家庭です。それを『不適切』と言うのなら、この保護者、留学生は、カナダの常識を受け入れる準備ができていないのかもしれない」

コーディネーターは、そのご家庭の人柄も、これまでの受け入れ実績も知っています。何年も留学生を受け入れ、大切にしてきた家庭かもしれません。その家庭を、会う前に否定する。これは、お子さんの立場を、静かに不利にします。

③ そして、いちばん大切なこと──留学の目的と、正面から矛盾します

これは、少し厳しいことを申し上げます。

私たちが子ども達をカナダに送り出すのは、なぜでしょうか。英語のためだけではないはずです。自分の育った国の「当たり前」が、世界の「当たり前」ではないと知ること。 違うかたちを、違うまま尊重できるようになること。それが、留学から本当に学べる人としての幅です。

その第一歩で、親御さんが「日本の常識で、カナダの家庭を採点する」。──これでは、お子さんに何を教えていることになるでしょうか。

厳しい言い方に聞こえたら、お許しください。でも、私は正直にお伝えすると決めています。

留学の最初の試験は、渡航前に、保護者の方のところに来ます。 「知らないかたち」に出会ったとき、拒絶するのか、まず知ろうとするのか。お子さんは、その背中を見ています。

そして、こうも思うのです。もし逆の立場だったら、と。カナダの人が日本の家庭に子どもを預けるとき、「三世代同居なんて、プライバシーがなくて子どもがかわいそうだ」と言われたら──私たちは、どう感じるでしょうか。


よくあるご質問

Q. コモンローのカップルは、結婚しているカップルより別れやすいのでは?

A. 統計的には、コモンロー関係のほうが解消率は高い、という研究があります。そこは正直にお認めします。

ただ、これはお子さんのホームステイの判断材料には、ほとんどなりません。理由は2つです。ひとつは、留学期間は約10ヶ月であり、ホストファミリーの多くは何年も継続して留学生を受け入れているベテラン家庭だということ。もうひとつは、離婚も、当然に起こるということです。「結婚しているから、10ヶ月間ずっと安定している」という保証は、どこにもありません。

そして、万が一ホストファミリーの家庭事情が変わった場合には、コーディネーターが動き、必要なら家庭を変更します。それは、婚姻の有無に関係なく、同じ仕組みで対応されます。

Q. ひとり親家庭のホストファミリーもありますか?

A. あります。そして、素晴らしい家庭がたくさんあります。カナダでは全世帯の約16%がひとり親家庭です。「両親がそろっていること」も、良いホストファミリーの条件ではありません。

Q. 同性カップルのホストファミリーは?

A. あり得ます。カナダは2005年に同性婚が全国で合法化された国です。学校でも社会でも、同性カップルの家庭は自然に受け入れられています。

これも、渡航前に「無理です」と伝えるのではなく、まずはご家庭の中で、正面から話し合っていただきたいところです。 そのうえで、お子さん本人が本当に難しいと感じるのであれば、私たちは相談を受けます。大切なのは、知らないまま拒絶するのではなく、知ったうえで考えるという順番です。

Q. ホストファミリーは選べないのですか?

A. アレルギーやペットなどの生活上のご事情はお伝えできますが、家庭そのものを選ぶことはできません。 これはどの教育委員会でも同じです。だからこそ、「どの家庭か」より「どう関わるか」が、留学の質を決めます。

Q. それでも不安が消えません。

A. その不安を、否定するつもりはまったくありません。不安になるのは、真剣だからです。

ただ、不安は漠然としているうちが、いちばんつらいものです。何が心配なのか、それはカナダでは何を意味するのか、実際にはどう対処されるのか。ひとつずつ言葉にしていけば、たいていは小さくなります。私たちは、そのお手伝いをしています。


まとめ:知らないかたちを、まず知ることから

  • カナダのカップルの約23%(およそ4組に1組)がコモンロー。G7で最も高い
  • コモンローは、法律が責任を認めた、正式な家庭のかたち。「あいまいな関係」ではない
  • ホストファミリーの審査に、婚姻の有無は含まれていない。含まれているのは、犯罪経歴証明・家庭訪問・面接・継続的モニタリング
  • 良い家庭かどうかは、婚姻届では決まらない。食事、関心、コミュニケーション──それは会ってから見えてくる
  • 渡航前の家庭変更リクエストは、変更の枠を消費し、コーディネーターとの信頼を損ない、そして留学の目的と矛盾する

私たちは、保護者の方の不安を「気にしすぎです」と切り捨てるつもりはありません。むしろ、その不安をきちんと言葉にし、事実で応えるのが、私たちの仕事だと思っています。

カナダは、違うかたちを、違うまま受け入れてきた国です。日本とは違い、それがよくてカナダを選んだ方も多いはずです。お子さんは、これからその中で暮らします。 その最初の一歩を、私たちも一緒に踏み出させて頂ければと思います。

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参考データ:

  • Statistics Canada, Census of Population 2021(「State of the union: Canada leads the G7 with nearly one-quarter of couples living common law」2022年7月13日公表)
  • Immigration, Refugees and Citizenship Canada(IRCC)/Canada Revenue Agency(CRA):コモンロー・パートナーの定義(継続12ヶ月の同居)
  • 各州家族法(BC州 Family Law Act、オンタリオ州 Family Law Act、アルバータ州 Adult Interdependent Relationships Act)

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この記事を書いた人

カナダ・ウィニペグ在住。株式会社キャタリストカナダ代表。1998年、英語ゼロでカナダへワーキングホリデー渡航。2004年、28歳で仕事を辞め妻とともにハリファックスへ語学留学。英語教師資格CELTA取得・TOEIC935点。2006年創業以来、カナダ高校留学・語学留学・サマーキャンプの支援を続けています。自身の3人の子どもたちもカナダの学校に通っています。現地在住だからこそ伝えられるリアルな情報を、保護者・学生・社会人の皆さんにお届けします。

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