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中学卒業前にカナダ留学しても大丈夫?——「義務教育の放棄じゃないの?」に、きちんと答えるための記事

水谷通孝

カナダ在住・カナダ高校留学エージェント歴20年(2006年創業)。2025年にカナダへ移住し、自身の子どもたちもカナダの学校に通っています。現地在住の立場から、費用・学校・生活の最新情報を直接お伝えします。

最近、こういうご相談が増えています。

中学3年生。卒業前の2月にカナダへ出発して、現地のGrade 9(9年生、日本でいう中学3年)の後半に入る。2月から6月までの5ヶ月間。学年度が終了した6月末にいったん帰国し、9月からGrade 10。そのままカナダの高校を卒業する、3年半の計画です。

ご本人もご両親も、方向は決まっている。カナダの高校を卒業することが本丸で、日本の高校に通う予定はない。それでも、二つのことが引っかかっています。

一つは、周りからの言葉です。「中学を卒業しなくていいの?」「それって義務教育の放棄じゃないの?」。親戚や、学校の先生や、ママ友から、悪気なく言われます。

もう一つは、念のための不安です。「もし留学がうまくいかなくて帰ってきたら、日本の高校に入れないんじゃないか。全日制も、定時制も、通信制も」。

結論からお伝えします。中学卒業前にカナダへ留学することは、「義務教育の放棄」には当たりません。また、出発時期と学校側の判断によっては、日本の中学校の卒業認定を受けられる可能性があります。仮に日本の卒業証書を取得しなくても、カナダでGrade 9を修了すれば、日本の高校への入学資格を得ることができます。 この記事では、その根拠を文部科学省の公式見解と法令に沿って説明し、出発前にやっておくべき段取りを示します。周りの人に聞かれたとき、ご両親が自分の言葉で答えられるようになることが、この記事のゴールです。


「義務教育の放棄」にはならない理由

結論:義務教育とは「日本の中学の卒業証書」のことではなく、「9年間、教育を受けさせる」ことです。カナダの学校に通っている子は、教育を受け続けています。

まず、言葉を正確にしましょう。日本の義務教育は、保護者が子どもを「就学させる義務」です。この義務は、子どもが満15歳になる年度の終わり、つまり中学3年生の3月31日で終わります。

そして文部科学省は、海外に住む学齢の子どもについて、こう整理しています。国外に転出している間、就学義務は課されない。帰国した時点で、再び就学義務が発生する。つまり海外で学校に通っている期間は、義務を「放棄」しているのではなく、日本の就学義務の枠の外にいるだけです。

もっと大事なのは、実態です。2月に出発する子は、日本の中学に中1から中3の2月まで、ほぼ3年間通い切っています。そして2月からはカナダの学校でGrade 9、つまり「9年目の教育」を継続します。教育に空白はありません。むしろ、日本の中学が終わるより前に次の学校が始まっている。「放棄」と呼べる要素は、どこにもありません。

周りの人に聞かれたら、こう答えてください。「義務教育は3月で終わる年齢です。うちの子は2月までは日本の中学に通い、2月からはカナダの学校で9年目の教育を続けます。卒業証書は3月に受け取ります」。この最後の一文を言えるようにするのが、次の節です。


日本の中学の卒業証書は、取れる

結論:中学校の卒業認定は、校長が生徒の平素の成績などを評価して行います。全国一律に『何日以上出席しなければ卒業できない』という法的な出席日数要件が定められているわけではありません。そのため、2月まで在籍・通学していた生徒について、3月の卒業認定が可能かどうかは、学校側と事前に確認する価値があります。

ここで、私立中学に通っているご家庭に特有の話があります。私立に「2月に留学する」と伝えると、「それなら転籍になります」と言われることがあります。除籍、と言い換えてもいいでしょう。学校の在籍規程や学費の仕組みによるもので、珍しい対応ではありません。

このとき、籍は消えてなくなるわけではありません。お子さんは3月31日までは学齢の生徒なので、住民票が日本にある限り、教育委員会が住所地の公立中学を指定します。私立から在学証明書と教科書給与証明書をもらい、教育委員会で就学校の指定を受け、公立中学に転入する。これが流れです。

そして、転入した公立中学の校長が、3月に卒業を認定します。学校教育法施行規則は、卒業を「校長が生徒の平素の成績を評価して認める」ものと定めています。出席日数が何日以上、という法的要件はありません。不登校の生徒に3月に卒業証書が出るのと同じ仕組みです。私立で中1から中3の2月まで積み上げた成績は、指導要録として公立中学に引き継がれます。それをもとに校長が卒業を認めることは、制度上も実務上も、無理のない判断です。

卒業証書は、卒業式に保護者が代理で受け取るか、郵送か、6月の一時帰国のときに受け取ります。卒業証明書は、その後いつでも学校に発行してもらえます。

ただし、ここに一つだけ、絶対に外してはいけない段取りがあります。

転入の手続きをするその場で、教育委員会と指定校の校長に「2月に転入し、その後は留学のため本人が国外に滞在する予定です。3月の卒業認定はどのような扱いになるでしょうか」と伝え、卒業認定の取扱いを事前に確認しておくこと。 転入だけ済ませて、黙って出国してはいけません。「一度も登校していない生徒の卒業をどう扱うか」を、3月になってから校長が一人で考えることになるからです。先に話しておけば、校長は指導要録を見て判断できます。学校側が出国後に初めて事情を知る形は避けるべきです。同じ事実でも、順番で結果が変わります。

もう一つ、試す価値のある道があります。私立に「2月末まで在籍させて、3月の卒業を認定してもらえないか。卒業式は欠席し、証書は後日受け取る」と聞いてみることです。卒業式は3月上旬から中旬なので、2月末在籍なら残りは2週間ほど。この形を認める私立は実際にあります。学校が「転籍」と言ったのが在籍規程の話なら、卒業認定だけ切り離して相談できる余地があります。これが通れば、公立への転入そのものが不要になります。


仮に卒業証書がなくても、日本の高校には入れる

結論:高校の入学資格は「中学校卒業者」だけに認められているのではありません。「外国において学校教育における9年の課程を修了した者」にも、法律で認められています。この「9年の課程」は「9年間通った」という意味ではなく、「その国の学校制度で9年目に当たる課程を修了した」という意味です。文部科学省は大学の「12年の課程」について「12年目の課程の修了」を指すと明示しており、高校の「9年の課程」も同じ読み方になります。

学校教育法施行規則第95条は、高校に入学できる人を定めています。中学校を卒業した者のほかに、外国において学校教育における9年の課程を修了した者。中学校卒業程度認定試験に合格した者。そして、高等学校が「中学校を卒業した者と同等以上の学力がある」と認めた者。

カナダでGrade 9を6月に修了すれば、「外国で9年の課程を修了した者」に当たります。日本の中学を卒業していなくても、この時点で高校の入学資格は発生します。証明は、カナダの学校が出す成績証明書です。Grade 9を修了しGrade 10に進級したことが読み取れるものを、6月の一時帰国のときに必ず手に入れてください。

全日制、定時制、通信制は、すべて「高等学校」です。入学資格の規定は共通で、通信制だけ厳しい、ということはありません。

万一、Grade 9を修了する前に帰国することになった場合も、その後の進路が完全に閉ざされるわけではありません。ただし、帰国時の年齢や時期によっては、まず日本の中学校へ戻って就学する必要があります。学齢を過ぎた後であれば、中学校卒業程度認定試験や、高校側が中学校卒業者と同等以上の学力を認める制度など、別の方法で高校入学資格を得られる場合があります。

この考え方は、中1や中2から出発しても同じです。日本の小学校6年とカナダのGrade 7〜9を通算して「9年の課程を修了」と扱われるので、カナダでGrade 9を修了すれば高校入学資格は発生します。ただし出発が早いほど、本題は「資格」から「帰国時期」と「学力維持」に移ります。就学義務は15歳になる年度の末まで続くので、その前に帰国すれば日本の中学に編入する形になりますし、日本の国語や社会を何年分も学んでいない状態で入試に臨むことにもなります。小学校卒業直後の出発で、生年月日の関係からカナダで1学年上に配置される場合は、在学年数が1年短くなります。小学校卒業直後など早い時期に出発し、現地で通常と異なる学年配置を受けた場合は、日本で高校入学資格を確認する際の扱いが個別判断になる可能性があります。帰国後の高校進学を想定している場合は、志望校や教育委員会に事前に確認してください。早い時期の出発を考えているご家庭は、この記事の理屈を土台にしつつ、帰国時期の設計を個別に組み立ててください。

もう一つ、先に知っておいてほしいことがあります。単身留学の場合、公立高校の『帰国生枠』を利用できないケースがあります。例えば、東京都や神奈川県の公立高校の帰国生募集は『保護者に伴って海外に在住していた』ことを要件にしています。親の赴任に帯同した子は対象になり、子どもだけの留学は対象になりません。私立高校は学校によって扱いが違い、大学の帰国生入試になると多くの大学が保護者同伴を要件にしていないので、単身留学でも対象になります。「高校の帰国子女枠」だけが、単身留学には壁になる。ここを知らずに帰国してから驚くご家庭が少なくないので、先にお伝えしておきます。


正直に言うと、本当のリスクは別のところにある

結論:「卒業証書がないから入れない」は起こりません。実際に起こるのは「時期が合わない」です。

ここは、聞きたいことではなく、聞くべきことをお伝えします。

日本の高校は4月入学が基本で、多くの学校では出願や入試が1月から2月に行われます。そのため、2月に出国した後で留学を中止し、その年の4月に通常の新入学ルートで日本の高校へ入るのは、現実的にはかなり難しくなります。学校によっては二次募集や欠員募集などが行われる場合もありますが、『念のため』を設計するなら、卒業証書の有無だけでなく、入試時期のずれまで考えておく必要があります。

では、留学がうまくいかず帰国することになったら、実際にはどの道を使うのか。三つあります。

一つ目は、翌年4月の新入学です。1年遅れになりますが、日本の中学校の卒業証明書、またはカナダでGrade 9を修了したことが確認できる成績証明書などがあれば、高校入学資格を満たし、各校の募集要項に従って出願できます。

二つ目は、通信制高校です。多くの通信制は4月に加えて10月入学があり、転入を随時受け付ける学校もあります。カナダの学年は6月で区切りが来るので、通信制の10月入学は時期の相性がよい選択肢です。

三つ目は、カナダで1年以上過ごしたあとなら、日本の高校への編入です。帰国生の転入学試験として、私立を中心に広く行われています。カナダのGrade 10やGrade 11で履修した科目を単位として認めてもらい、高1や高2に入る形です。留学を途中でやめた子が実際に使うのは、新入学ではなく、ほとんどこの道です。そしてこの編入の入り口で求められるのも、中学の卒業証書ではなく、「高校入学資格があること」と「海外校の成績」です。

だから私は、こうお伝えしています。卒業証書は、取れるなら取っておく。それは「中学校卒業者」として何の説明もなく出願できる安心のためです。でも、留学の安全網は卒業証書ではなく、6月に手に入れるカナダの成績証明書と、撤退するときにどの道を使うかを出発前に知っておくことです。


出発前の段取り(時系列)

結論:1〜2月に学校の話を済ませ、住民票は6月まで残し、6月に成績証明書を取る。これで両方の証明が手元に揃います。

1月から2月にかけて、まず私立に「2月末在籍・3月卒業認定・証書は後日受領」の可否を確認します。難しければ、私立から在学証明書と教科書給与証明書を受け取り、教育委員会で就学校の指定を受け、公立中学に転入します。その場で校長に留学の事情と卒業認定の希望を伝え、了解を得ます。

住民票は、2月から6月の5ヶ月間は残しておきます。1年未満の海外滞在は「在籍のまま長期欠席」として扱われ、転出届は不要です。転出届は、9月にGrade 10へ出発する前に出します。

6月の一時帰国では、カナダの学校からGrade 9修了とGrade 10進級が読み取れる成績証明書を入手します。日本の卒業証書と一緒に保管してください。この二つが揃った状態で、9月からの本番に入ります。


よくある質問

Q. 中学を卒業しないで留学するのは、義務教育の放棄になりますか? A. なりません。就学義務は満15歳になる年度の末(中3の3月31日)で終わり、海外にいる間は文部科学省の整理でも就学義務は課されません。しかも2月までは日本の中学に通い、2月からはカナダでGrade 9(9年目の教育)を継続するので、教育に空白はありません。

Q. 私立を2月に離れると、籍はどうなりますか? A. 3月31日までは学齢の生徒なので、住民票が日本にある限り、教育委員会が住所地の公立中学を指定し、そこに転入する形になります。海外滞在が1年未満なら、在籍のまま長期欠席の扱いです。

Q. 公立中学に転入してすぐ出国しても、卒業認定を受けられますか?
A. 可能性はあります。卒業認定は校長が平素の成績などを評価して行うもので、全国一律の出席日数要件があるわけではありません。私立中学での成績や指導要録が転入先へ引き継がれるため、それらも判断材料になります。ただし、卒業認定は最終的に校長の判断です。転入手続きの時点で、留学予定と卒業認定の扱いについて必ず学校側に確認してください。

Q. 日本の中学の卒業証書がないと、日本の高校への入学資格はなくなりますか?
A. なくなりません。学校教育法施行規則第95条では、中学校卒業者だけでなく、『外国において学校教育における9年の課程を修了した者』にも高校入学資格が認められています。カナダでGrade 9を修了すれば、この資格に該当します。これは全日制・定時制・通信制に共通する高校入学資格の考え方です。

Q. 留学がうまくいかず帰国したら、どうやって日本の高校に入りますか? A. 翌年4月の新入学、通信制の10月入学、またはカナダで1年以上過ごした後の編入(帰国生の転入学試験)です。実際に使われるのは編入がほとんどで、必要なのは高校入学資格と海外校の成績です。

Q. 転出届はいつ出しますか? A. 2〜6月の5ヶ月は1年未満なので不要で、住民票は残します。9月のGrade 10出発前に出します。


卒業証書は「取れる」。でも、それが本丸ではない

このご相談で私がいつもお伝えしているのは、順番の話です。

卒業証書は取れます。段取りをすれば、周りの誰に何を言われても、「3月に卒業しました」と一言で答えられます。それは大事なことです。ご両親が説明に疲れないために。

でも、本丸はカナダの高校卒業です。そのために本当に必要なのは、6月に手に入れる成績証明書と、「もしものときはこの道を使う」と決めてある安心です。逃げ道を知っている人ほど、逃げずに済む。留学を20年見てきて、これは本当にそうだと思います。

「うちの子の場合、私立に何をどう聞けばいいですか」「この時期の出発で、学校側はどう受け止めますか」——そういう具体的な段取りを、一緒に組み立てます。私には勧めたい特定の学校はありません。あるのは、同じ2月出発を選んだご家庭が、どこでつまずき、どこで安心したかの記憶だけです。

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水谷通孝

カナダ在住・カナダ高校留学エージェント歴20年(2006年創業)。2025年にカナダへ移住し、自身の子どもたちもカナダの学校に通っています。現地在住の立場から、費用・学校・生活の最新情報を直接お伝えします。

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