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カナダに「不登校」という言葉はない ── 留学前に親子で知っておきたい「休む」の文化ギャップ

水谷通孝

カナダ・ウィニペグ在住。カナダ高校留学エージェントとして20年以上の実績を持ち、自身の3人の子どもたちもカナダの学校に通っています。現地在住の立場から、費用・学校・生活の最新情報を直接お伝えします。

「今日は心が疲れたから、学校を休もう」。

日本では、もうそれほど珍しい言葉ではなくなりました。けれど、その同じ言葉が、カナダの学校では先生にもホストファミリーにも、思ったようには伝わりません。悪気があるわけではありません。彼らの頭の中に、日本の「不登校」に当たる“概念そのもの”が、ほとんど存在しないからです。

この記事は、お子さんをカナダに送り出すご家庭に、現地で起こりがちな「分かってもらえない」というすれ違いを、渡航前に防いでいただくために書きました。20年以上カナダの学校現場を歩き、今まさに3人の子をカナダの学校に通わせている立場から、できるだけ正直にお伝えします。

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日本の「不登校」は、社会に認知された“状態の名前”

まず、私たち日本人が当たり前に使っている「不登校」という言葉を、あらためて見てみます。

文部科学省は不登校を、「心理的・情緒的・身体的あるいは社会的な要因により、登校したくてもできない状態が続き、年間30日以上欠席した状態(病気や経済的理由を除く)」と定義しています。かつては「学校ぎらい」と呼ばれていたものが、平成以降は「通いたいけれど通えない子ども」までを含む、より広い概念へと変わってきました。

そして数字を見ると、これはもう一部の子の話ではありません。2024年度の調査では、小中学校の不登校は過去最多の約35万4,000人。12年連続で増え続け、1998年の約12万7,000人と比べて3倍近くになっています。高校でも増加が続いています。

ここで大切なのは、日本ではこの状態を支える「受け皿」と「社会の理解」が、制度の面でも気持ちの面でも整いつつあるということです。フリースクールという選択肢があり、学校以外の学びの場を保障する法律(教育機会確保法)もあります。「無理して行かなくていい」「休むことも回復の一部」という考え方は、いまの日本ではかなり広く共有されています。

つまり日本では、**「不登校」は誰もが知っている“状態の名前”**になっているのです。


カナダには、それに当たる言葉が「ない」

ところが、カナダにはこの「不登校」に正確に対応する概念がありません。あるのは、まったく性格の違う2つの言葉です。

① Chronic absenteeism(慢性的欠席)── “直すべき問題”

カナダの学校が追いかけているのは「chronic absenteeism」という指標です。これは理由を問わず(病欠さえ含めて)、年間の授業日の10%以上=およそ18日を欠席した状態を指します。

注目すべきは、これが「認めてあげるべき状態」ではなく、**学校・家庭・地域が協力して“解決すべき問題”**として扱われている点です。日本の「休んでいい」という空気とは、出発点からして逆を向いています。

② School refusal / School phobia(登校拒否・学校恐怖症)── “治療の対象”

もう一つ、不安などで学校に行けなくなる状態には「school refusal(登校拒否)」という言葉があります。ただしこれは臨床的・医療的な概念で、対応の基本は「学校やかかりつけ医・専門家(心理士・カウンセラー)に相談し、できるだけ早く学校に戻れるよう支援する」こと。

カナダにもスクールカウンセラーやメンタルヘルスの支援体制はしっかりあります。けれどそのゴールは、多くの場合「学校に戻ること」に置かれています。「学校から離れて休む」ことそのものを目的化する発想は、ほとんどありません。


カナダはいま、むしろ「出席に厳しく」なっている

さらに知っておいていただきたいのは、近年のカナダがメンタルヘルスに配慮しつつも、出席に対してはむしろ厳しい方向に動いているという現実です。

たとえばオンタリオ州は2026年、出席や授業参加そのものを成績評価に組み込む方針を打ち出しました(9・10年生で15%、11・12年生で10%を出席・参加に配分する案)。州によっては、子どもの欠席に対して保護者に罰金が科される枠組みも残っています(オンタリオ・マニトバで200ドル、アルバータでは1日最大100ドルなど)。

「行きたくない日は休む」という日本的な感覚のまま渡航すると、カナダではそれが成績・単位の問題に直結してしまうのです。


留学生にとっては、さらに見えにくいリスクがある

日本国内の不登校と、カナダ留学中の欠席には、もう一つ決定的な違いがあります。**在留資格(就学許可)**です。

カナダの就学許可を持つ留学生には、「積極的に就学する(actively pursue studies)」という法律上の義務があります。長期の欠席は、この義務の不遵守と判断されることがあり、最悪の場合は今後の入国に制限がかかる可能性もあります。これは日本の「休む権利」とはまったく次元の違う、重い話です。

加えて、

  • カナダの高校は**単位制(リニアシステム)**のため、欠席は単位の未修得・進級の遅れに直結します。
  • 18歳未満の留学生には**custodian(後見人)**の責任が及び、「とりあえず家で休ませる」という選択が、日本ほど簡単ではありません。

日本では「休む権利」に近い感覚だったものが、カナダでは「成績・単位・在留資格」というリスクの言葉に置き換わる。この翻訳を渡航前にしておけるかどうかが、留学の成否を大きく分けます。


では、どう備えればいいのか

ここまで読むと不安になられたかもしれません。でも、ご安心ください。違いを知っておくこと自体が、最大の備えになります。お子さんとご家庭にお願いしたいのは、次の4つです。

1. 「辛い=休む」ではなく「辛い=相談する」に置き換える

カナダでは、しんどさを「黙って休む」よりも「言葉にして伝える」ほうが、はるかに早く助けにつながります。カウンセラー、ESL担当、ホストファミリー、そして私たちエージェント。頼れる相手を最初に決めておきましょう。

2. 不調はカナダの“文法”で伝える

「気持ちが辛い」という日本的な表現は、現地では伝わりにくいことがあります。「不安で眠れない」「お腹が痛くて集中できない」など、具体的な状態として伝えると、現地のサポートが動きやすくなります。

3. 「休む」のではなく「調整する」発想を持つ

カナダの学校は、診断や相談があれば、課題の延長・別室対応・段階的な復帰プランなど、現実的な配慮を用意できます。完全に離れるのではなく、負荷を調整しながら学校とつながり続けることが、結果的に子どもを守ります。

4. そもそも「合う環境」を選ぶ

ここが、私たちエージェントの仕事の核心です。大規模校か小規模校か、ESLサポートが手厚いか、ホストファミリーとの相性はどうか――。しんどさを抱えやすいお子さんほど、最初の環境選びがすべてを左右します。

たとえば全寮制には、朝つまずいても一日のうちに何度も教室へ向かい直せる、という環境面の強みがあります。詳しくは「朝、行けない」が丸一日の欠席にならない──全寮制という環境が向いている理由をご覧ください。


エージェントとして、正直にお伝えしたいこと

「日本で学校が辛かった子が、カナダなら大丈夫になりますか?」

カウンセリングで、よくいただく質問です。私の答えはいつも同じです。「変わる子もいます。ただし、合う環境と現地のサポートがそろったときだけです。」

環境を変えると、人は本当に変わることがあります。私自身、17歳で進路を断たれ、型枠大工をしていた人間が、カナダという環境に出会って人生を変えました。だから「環境の力」を、きれいごとではなく信じています。

けれど同時に、**「日本で行けなかったから、とりあえずカナダへ」**という発想だけで送り出すことには、はっきり反対します。これまで見てきた通り、カナダの制度はむしろ出席に厳しく、言語の壁も加わります。準備のないまま環境だけ変えても、苦しさが大きくなるだけのことがあるからです。

だからこそ私たちは、売り込みません。 その子とご家庭に本当に合う場所を、カナダ全土の学校を実際に見て歩いた中立の立場から探します。合わないと思えば、正直にそうお伝えします。私には「ここに入れたい場所」はありません。あるのは、「この子に合う場所はどこか」という問いだけです。

カナダに「不登校」という言葉はありません。でも、しんどさを抱えた子をきちんと支える仕組みは、ちゃんとあります。その仕組みを、お子さんに合う形でつなぐのが、私たちの役割です。


よくある質問(FAQ)

Q. カナダの学校は、気分や体調がすぐれない日に休めますか?

休むこと自体は可能です。ただし日本のような「休んでいい」という空気はなく、欠席は「慢性的欠席(年間約18日=10%)」という“解決すべき問題”として記録されます。さらにオンタリオ州などでは出席が成績評価に組み込まれ、留学生の場合は単位や在留資格にも影響します。「気分で休む」が日本ほど通用しないという前提を、まず親子で共有しておくことが大切です。

Q. 日本で不登校でしたが、カナダ留学はできますか?

不可能ではありません。環境が変わることで前向きになれるお子さんもいます。ただし正直にお伝えすると、合う環境選びと現地サポートがそろったときに限ります。「日本で行けなかったから、とりあえずカナダへ」という発想だけで送り出すことには、私たちははっきり反対します。カウンセリングでは、今が留学のタイミングとして適切かどうかを正直に見極めます。合わないと判断すれば、そうお伝えします。

なお「欠席が多い・不登校歴があっても、出願は実際にできるのか」(過去の成績表や欠席理由の説明、作文での意志の伝え方、条件付き入学の仕組みなど、出願の実務面)については、こちらの記事で具体的に解説しています。

欠席が多い方・不登校歴がある方のカナダ留学(出願の実際)はこちら

Q. メンタル面が不安です。カナダの学校にサポートはありますか?

あります。スクールカウンセラー、学校単位のメンタルヘルス支援、ESLサポートなどが整っています。ただしその支援は基本的に「学校とつながり続けながら支える」方向に設計されており、「学校から離れて休む」ことを目的にはしていません。不調は黙って抱えず、「不安で眠れない」「集中できない」など具体的な言葉で早めに伝えることが、助けにつながる近道です。

Q. もしカナダで学校に行けなくなったら、どうなりますか?

カナダの高校は単位制のため、長期欠席は単位・進級に直結します。18歳未満なら後見人(custodian)の責任が及び、就学許可の「積極的に就学する」義務にも関わります。だからこそ大切なのは、一人で抱え込んで姿を消さないこと。 学校・カウンセラー・私たちエージェントに早く相談するほど、課題の調整や段階的な復帰など、取れる選択肢が増えます。

Q. うちの子はカナダ留学に向いていますか? どう判断すればいいですか?

「強い子かどうか」ではありません。見ているのは、困ったときに「助けて」と言えるか、生活の基本的なリズムが保てるか、ご家庭が伴走できるか、といった点です。これは渡航前にご家庭だけで判断する必要はありません。カウンセリングで一緒に整理します。ときには「今ではない」というのが、いちばん誠実な答えになることもあります。


まずは、お子さんの今の状況をそのままお聞かせください。無理に決める必要はありません。一緒に「合うかどうか」を考えるところから始めましょう。

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